中野いいとこ3
館長の三田さんは忙しい。
著書『嫁菜の花』が売れると、希望に応じて絵入りサインのパレットを持つ。
次の企画の打ち合わせの電話が入り、また話は中断する。
ご主人の聖夫さんは、脳腫瘍の後遺症で目が不自由だが、白い杖を持ち、一人でも外出される。
美術館の詳しい案内書をつくり、会場の音楽を担当し、渉外にも当たる。
ご両親である劇作家の田中千禾夫・澄江夫妻は、隣の母屋から声援を送っている。
「義父は毎日、喫茶ヌーボーシャンに来てくれて、濃いミルクティを片手に目を細めてます。マンションでも建てて、私が絵を教えてるだけなら、もっと楽だったでしょう。この美術館は、子供のいない私たち夫婦の生きている証とでもいいましょうか。家族が力を合わせて、美術館の運営に励んでいることに意義があると思っています」
お母様は山登りに、講演にと外出が多いようだが、やさしく見守るお父様には、お会いできるかも知れない。